コーヒーかすをコーヒーカップに変える。ベルリン生まれの「Kaffeeform」
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コーヒー愛好家が多いことで知られるヨーロッパでは、一人当たり平均年間5キロ以上ものコーヒーを嗜んでいる。ドイツ人は、年間一人当たり約6.5キロ以上のコーヒーを喫しており、日本人の一人当たりの平均消費量である3.7キロを大きく上回っている。
ここで問題となってくるのが、コーヒー抽出後に残る「コーヒーかす」が全て破棄され、地球温暖化に繋がる温室効果ガスの放出に直結してきたことだ。毎日ヨーロッパだけでも大量に破棄されているコーヒーかすを捨てずに何かに再利用したい ー その発想から、コーヒーかすを素材に使った、タンブラーや腕時計の商品化したのが、ベルリン発のブランド「Kaffeeform(カフェフォルム)」だ。
Prenzlauerberg地区の自然に囲まれた本部のオフィスにて、ファウンダー兼デザイナーであるジュリアン・レヒナー氏に、コーヒーの「抽出かす」に着目した経緯から、将来のビジョンまでを伺った。
ー 「Kaffeeform」カップの商品化までの経緯を教えてください。どうして「コーヒーかす」に着目したのですか?
ジュリアン・レヒナー(以下:ジュリアン)「Kaffeeform」の発想は、私がイタリア北部の小さな山村でプロダクトデザインを勉強していた2010年頃に生まれました。イタリアはコーヒー文化が盛んで日常的にコーヒーをたくさん飲んでいたのですが、ある時ふと、毎日大量に生じる抽出後のコーヒーかすの行方に疑問を抱いたんです。当時のカフェやバーでは、使用済みのコーヒーかすを全て破棄しており、再利用の可能性を考えていませんでした。そこで、抽出済みのコーヒー豆を再利用したカップの作成を目指すことにしました。
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ー 「Kaffeeform」のカップについて詳しく教えてください
ジュリアン:「Kaffeeform」では、長期的な使用を目的としたコーヒーカップを2種類作っています。カップのラインアップ名はコミュニティーを意味する「We」と「Reduce」を掛け合わせた、「Weducer Cup」。”Essential”というベーシックなタイプと”Refined” という更に高性能なモデルがあります。
再利用可能なタンブラーの殆どがアジアで製造され、ヨーロッパに輸入されている中、「Kaffeeform」ではベルリンから調達した資源でドイツ国内で製造していることも大きなポイントです。
Essentialシリーズはコーヒーかす、ブナの木屑、染料、それからビオポリマーを原料としています。ビオポリマーとは、石油ベースではなく、植物のナチュラル由来のプラスチックです。
Refinedシリーズのカップは、二層の構造になっていることから断熱されており、熱いコーヒを入れた際もカップ自体が熱くならず、飲み物の温度が最低1時間半は保たれるようになっています。こちらは外側の層がコーヒーベースの素材、内側の層がウッドベースになっています。
Weducerカップはどちらのシリーズもビジネスのロゴや個人の名前をプリントしてカスタマイズできるようになっています。
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ー「Kaffeeform」のカップはコンポスト可能ですか?
ジュリアン:残念ながら、現時点では出来ません。100℃の液体を入れても溶けない耐熱性、そして長期使用に不可欠である耐久性を高める素材の一部がコンポスト不可能だからです。しかし「Kaffeeform」の全商品は、こちらで回収することによって、新たな製品にリサイクルできますので、是非お客様には使用済みの商品を捨てずに返却することに協力してもらいたいのです。
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ー 使用するコーヒーかすは、ベルリン以外の地域から調達していますか?
ジュリアン:いいえ、現段階では使用しているコーヒーかすは全てベルリン市内から調達しています。それでも全ての抽出かすを使いきれないほどの量があるので、ベルリナーはそれほどコーヒー好きなんです(笑)。
ちなみに、ロブスタやアラビカなど、色々な種類のコーヒー豆が混ざっていても、素材としての問題はありません。ただ、豆が細かく挽いてあることは重要ですので、回収した後にこちらで調整しています。
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「Kaffeeform」は、タンブラーに続く二つ目の製品として、今年新たに腕時計をリリースした。フレーム部分がコーヒーベースの素材であり、バンド部分はリサイクル紙をベースにしたビーガンレザー、ウォッチ自体は、ベルリンの時計メーカーが手がけているという。カップ同様、全てのパーツがドイツ国内で製造されている点も重要なポイントだ。
ー 腕時計を作ろうと思ったのはなぜですか?
ジュリアン:私たちが開発したコーヒーベース素材の多様性を披露したかったことが大きいです。
カップやその関連商品だけでなく、バスルームで使える日常的なトレイやファッショナブルな腕時計に至るまで、多類の商品を作ることが可能です。特にファッション業界では、ゴールドなどのラグジュアリーな素材を身につけたいという考えの人も多いですが、従来破棄されている素材も、加工次第では美しい形に再利用できるポテンシャルがあり、スチールなど忍耐性のある金属の代用も可能であることを全面的にアピールしていきたいと思っています。
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ー ベルリンには、多くのカフェ・レストラン共通で使えるファンドシステムのレンタルカップがありますが、「Kaffeeform」においてはいかがですか?
ジュリアン:レンタルカップは将来検討していきたいですが、「Kaffeeform」のカップは、レンタルされている他社のカップとは素材から製造までのコストが全く違うことから、2ユーロのファンドでは貸し出すことができません。2ユーロのファンドでは「購入」したことになっちゃうのです(笑)。なので現段階では、素材などを含めてファンドとしては高すぎるプライスポイントとなってしまい現実的ではありません。。
ただ、2019年にベルリンで開催された「Berlin Coffee Festival」では、そこで使用されたコーヒーかすを原料に作られたカップを、翌年の同フェスティバルでレンタルカップとして提供した経験があります。その際のデポジットは、ファンドとしては高めの金額設定でしたが、製造する費用と差し引きゼロだったので破損や紛失した場合も問題はなかったです。再度「Berlin Coffee Festival」が開催されたら、是非また同じ形で取り組みたいです。
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ー Kaffeeformの将来のビジョンや目標を教えてください。
ジュリアン:現時点において「Kaffeeform」は再利用可能なコーヒーカップとして、ある程度の人気と成功を納めたと感じています。
これからの成長は、商品の売り上げ向上、提携店の拡張、そして、次なる新商品の考案にかかっています。「Kaffeefrom」で開発した素材は、耐久性、耐熱性共に優れていますので、腕時計などのファッション関連商品だけでなく、他の分野のプロダクトも案出していきたいと思っています。
また、他のスタートアップとのネットワークやコラボレーション企画を拡大していくことも重要だと感じています。コーヒー豆をリサイクルし、商品化しているスタートアップ社は他にもありますが、ほとんどが小規模なスケールで動いています。特にベルリンは、スタートアップが盛んな都市なので、エコやマインドフルネス、あるいは環境問題の改善に取り組んでいるSDGsな団体と協力し合うことで、より効果的に環境に貢献していくことを目指しています。
Weducerカップとウォッチは、「Kaffeeform」の公式オンラインストアから購入することが可能となっている。また、ベルリン市内では提携先のカフェからカップを購入することも可能。
世界中で愛されているコーヒー。人気が高いからこそ生じる環境への負荷を少しでも軽減する方法を自分たちでも考慮していくべきだと思う。コーヒーかすを再利用した「Kaffeeform」のカップで大好きなコーヒーを飲むことはその一歩に繋がるだろう。
Interview & text by Fuko Chiba