ヨーロッパ最大級のヴィーガンフェスティバル『Veganes Sommerfest 2018』に潜入
ベルリンでは毎週末数え切れないほどのフードフェスティバルが開催されており、その中でもトップクラスの注目度と集客を誇るのが今回紹介する『Veganes Sommerfest Berlin』である。8月24日~26日の三日間に渡り、アレクサンダー広場にて開催された同フェスは名の通り、”ヴィーガン=絶対菜食主義”に特化したフェスティバルとしてヨーロッパ最大規模を誇る。(*過去にはベジタリアンも含むフェスとして開催されていたが、現在はヴィーガンのみとなっている。)
ドイツ・ベジタリアン連盟のProVeg Germany(元VEBU)と動物保護団体Albert Schweitzer Foundation(ASF)とボランティア団体のBerlin-Veganの3つの団体によって主催されており、フードだけでなく、化粧品、アパレル、健康グッズなども含めた130ものメーカーやブランドが出店し、来場者数は65,000人にも上る。バーガー、ピザ、パスタ、サンドイッチ、ビール、ワインといった通常のストリートフードフェスと一見何も変わらない飲食ブースがズラリと並び、言われなければヴィーガンとは分からない。当然ながら肉も魚も化学調味料も一切使用されておらず、材料の多くはオーガニックである。
「今年は天候にも恵まれて初日からとても良い反響を得ています。今年で11回目を迎えますが、年々出店数も増え、認知度も上がってきました。このフェスに参加することによってヴィーガンに興味を持ってくれたり、理解を深めてくれることを私たちは期待しています。」と、主催企業の一つであるProVegスタッフの女性が語った。
今回が初参加となった筆者が最も驚いたのが、大豆ミート(ベジミート、ソイミートとも呼ばれている)への関心の高さである。その場で焼いた商品を試食して購入出来る実演販売を行っているメーカーがほとんどであったが、ブースを覗くのも困難なほどの人集りができ、あっという間に試食が終わってしまうほど。中でも絶えず人集りが出来ていたのは、1995年に南ドイツ・レラハ(Lörrach)で創業した「Lord of Tofu」。ドイツ最古のオーガニック認証機関BIOLANDの認定を受けている唯一の豆腐メーカーであり、ステーキ、ハンバーガーパテ、チキン、ソーセージ、ナゲット、ハムなど豆腐から作られるありとあらゆるソイミート食品を製造している。自社開発したコンブチャが入っていることが一番の特徴であるが、大豆を発酵させて作ったコンブチャを混ぜることにより、大豆のタンパク質が保たれ、ナッツ風味にもなる。また、抗発癌、解毒、消化作用をもたらす効果もあるという。
ソースに絡めたソイミートは一見肉にも見えるが、一口食べると肉の風味や食感の奥に豆腐の存在を確かに感じる。こわだり抜いた製造方法によって味のクオリティーも高く、種類も豊富なため、これなら肉を食べたいという欲求も抑えられるのではないだろうか?と思った。あくまでも豆腐好きな筆者の個人的意見である。
グルテンミートと呼ばれているセイタンで作ったハンバーガーのパテやソーセージ、ハムなどの製品を展開している「L’herbivore」も同様にすごい人集りが出来ていた。2016年にベルリンで初のとなるヴィーガンミート専門店としてオープンし、併設されているビストロとともに話題となっている。製品の全てはオーガニック食材のみが使用され、独自のレシピのもと手作業にて作られている。
ビオスーパーやビオ食品コーナーでは定番のメーカー「Taifun」の人気も負けてはいない。ドイツ、フランス、オーストリアなどのヨーロッパ諸国から遺伝子組換えのない大豆のみを仕入れ使用しており、バラエティーに富んだユニークな味付き豆腐やフィレ、ソーセージなどの豆腐の加工食品を多数開発している。値段も2ユーロ前後が多く、ヴィーガンフードの価格としてはお手頃である。
モダンなデザインとユニークな発想で注目を集めていたのは、ベルリンでもまだ馴染みの薄いテンペの食品メーカー「peaceful delicious TEMPEH」である。テンペとはインドネシア発祥の発酵食品であり、見た目は納豆と似ているが発酵時に使われる菌の名前がテンペであり、ブロック状や棒状に固められるのが基本。
今年初出店となった同店はまだ始動したばかりのスタートアップで、大豆以外にも赤豆、黒豆、ひよこ豆を使った独自のテンペを開発し、研究し続けている。もちろん全てオーガニックの豆を使用している。同フェスではスティック状のテンペをテリヤキソースに絡めて千切りキャベツとともに提供していたが、それぞれの豆の素材の味が生かされており、日本人の口にも合う絶妙なコンビネーションに驚いた。
今回の「Veganes Sommerfest」において特筆すべき点は、筆者も含む菜食主義ではない”カーニズム”と呼ばれる肉食主義の人々からの関心が非常に高いことである。揚げ物専門メーカーの「Fry Family Food」のブースではナゲットを試食していた女性から「これ本当にお肉じゃないの??」と驚きの声が上がり、スタッフの話を真剣に聞いている様子がとても印象的だった。
日本から旅行で来ていた知人からも「ヴィーガンって具体的にはどうゆうこと?」と聞かれ、「ベジタリアンと違って牛乳やバターなどの動物性のものも一切摂取しないこと」と、ここまでは説明出来るもののソイミートや長蛇の列が出来ていたチュロスやドナーツに使われている全ての材料を説明することは不可能である。このように関心はあるが知識を持っていない人のためにも同フェスは開催されており、正しい認識を得た上で自身のライフスタイルを改めて考える良い機会になるのだと感じた。また来年も参加し、ヴィーガン動向を追っていきたいと思う。
Author: 宮沢香奈/Kana Miyazawa
ライター、コラムニスト、コーディネーター
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーを取材するなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’s FUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。
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