リビングルームのような居心地と温かさを提供するアフロイタリアンレストラン”Ataya Caffe”
最先端のカフェやレストランが多数点在する飲食店激選区としても知られるプレンツラウアー・ベルク地区。2016年の夏にオープンしたアフロイタリアンのフュージョン料理を提供するヴィーガンレストラン「AtayaCaffe」もその一角に店を構える。
一歩店の中に入ると誰かの家に遊びに来た時のような家庭的な雰囲気を感じる。店内のインテリアは開放的なリビングルームのようで、アフリカンワックスプリントのカラフルなファブリックに囲まれ、民俗調のテーブルは全てバラバラで統一されておらず、それが逆に温かさと親しみやすい空間を演出していた。大人数で食事を囲めれる大きなテーブルや子供が遊べるスペース、自由に読める本なども用意されており、各々に店内の空間を楽しんで欲しいという心遣いが感じられた。
居心地の良い空間でくつろぎながら食べれる料理は思わず笑みがこぼれるほど美味しい。オーナー・シェフで15年以上のキャリアを持つサルデーニャ出身のエリザベッタさんとセネガル出身のバシールさんご夫妻は、自分たちのレストランを持つことを目標にケータリングサービスから始めたという。2人の母国であるイタリアとアフリカの家庭料理をミックスしたオリジナルメニューを提供しており、100%ヴィーガンに徹底している。イタリアンレストランは数え切れないほど存在するベルリンだが、アフロイタリアンのヴィーガンというのは非常に珍しい。
店の一番奥にあるカウンターで自らオーダーするスタイルになっており、メニューは黒板に書かれている。一番の人気メニューは、セネガルの首都ダカールから付けられたCurry Dakar(ダカール・カレー)。トロトロに煮込まれた野菜とひよこ豆の相性が抜群で、スパイシーさはなくまろやかで優しい味なのにコクがあり、癖になる美味しさ。個人的にもレシピを知りたいと思うほどの絶品である。
ナス、カボチャ、トマトなどの焼き野菜とフムスのプレートも季節の野菜がたっぷりで、濃厚だけど上品なフムスと良く合う。どちらも1品10ユーロでかなりのボリュームがある。お腹を空かせていくことをお勧めするが、オーガニックで良質な素材を使用したヴィーガン料理はいくら食べても胃もたれせず、罪悪感もなく食べられる。他にも二種類のパスタ、クスクス、スムージー、デザートなど豊富に揃っている。
夕方になるとエリザベッタさんは娘さんのお迎えに行くため先に店を出て行った。残されたバシールさんは店内奥のソファーに座ってギターの弾き語りを始めた。実はバシールさんはミュージシャンでもあり、こうやって営業中に演奏することもあるのだそう。そんな自由気ままでほっこりするエピソードに癒されながらついつい長居してしまった。
2人はセネガルの貧困女性のための支援活動も行なっているという。ジェントリフィケーションが進むベルリンは急激な家賃の高騰により、住めなくなってきている人も多い。街が都会化していくことは便利で良い面もあるが、人間同士の関わりが希薄になっていってしまう恐れがある。
街に続々とオープンするモダン建築が主流の最新のレストランは確かに目を奪われるスタイリッシュさがある。しかし、「AtayaCaffe」のようなトレンドの真逆をいき、洗練されていることよりももっと人に寄り添った下町にあるような人情味溢れるレストランがこの街には必要不可欠だと感じた。
”Ataya”とはアタイヤと読み、食後に飲むお茶の名前。セネガルの習慣であり、じっくり時間をかけて数回に分けてお茶を飲むことから、同店でも同じようにゆっくりくつろいで欲しいという意味が込められている。エリザベッタさんとバシールさんの笑顔にまた会いに行きたい。
AtayaCaffe
Zelterstraße 6, 10439 Berlin
営業時間:水~土 11:00~19:00
日 11:00~16:30
月 定休日
Author: 宮沢香奈/Kana Miyazawa
ライター、コラムニスト、コーディネーター
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーを取材するなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’s FUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。
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