ポルトガル・リスボン ヴィーガン事情
ポルトガルは、日本にとって最初に出会った西洋の国。1543年にポルトガル人が種子島に辿り着いて以来の長いお付き合いがある。恐らく日本で一番有名なポルトガル人は、歴史の教科書に出てくる宣教師フランシスコ・ザビエルで、これまでの文化交流によりパンやタバコなどポルトガル語が由来になっている言葉も数々あり、何となく身近に感じるけれど最近のポルトガルについて知っていることと言えば、きっとサッカーのスーパースターであるクリスティアーノ・ロナウドぐらい?そんな近い様でとても遠い、地球の裏側ヨーロッパの最西端にあるポルトガルの今を、首都リスボンのライフスタイルから少しずつ紹介していきたい。
7つの丘がありテージョ川に面した、赤い屋根が映えるリスボンの街並み。
まずは食について。ポルトガル人はラテン民族で、食べることが大好き。筆者が以前住んだオランダを始め、北ヨーロッパの人たちは比較的、食に対してドライで働くために食べる感じだけれど、ポルトガル人は、食べることを楽しみにして働いている感じがする。彼らは平日のランチにも十分な時間をとり、会話を弾ませながら、(ヨーロッパにしては珍しい)温かい食事をする。休日のランチは特に、大きな食卓を一緒に囲み、美味しいものをシェアしながらの家族との大切なコミュニケーションの時間でもある。
ポルトガルは、大西洋に面しているのはもちろんだが、大陸からかなり離れた場所にも島々(マデイラ諸島・アゾーレス諸島)を持ち、その恩恵に預かる新鮮な魚介類がいつも種類豊富にスーパーや市場に並ぶ。農業も盛んで、とれたお米や野菜を料理にも沢山使う。燦々と降り注ぐ強い太陽のお陰で、全土に渡って葡萄が育ち、通の知るワインの名産地としても有名だ。(ちなみにポルトガルは漢字で葡萄牙と書く。)そして日本では専らスペインのイメージが強いが、イベリコ豚の産地であるイベリア半島にはポルトガルも含まれ、ポルトガルでも大量のイベリコ豚の生産と消費がある。
1892年からあるリスボンのリベイラ市場。この生鮮食品エリアの他は、今はフードホールとして大人気のスポット。
この地で果たしてヴィーガン&ベジタリアンを普及させられるのか、というのがリスボンに移住した時の素朴な疑問だった。たまたま友人がヴィーガンで、彼らと一緒に外で食事をする機会があり、リスボン市内の中心には意外と多くのヴィーガン&ベジタリアンのレストランがある、ということを知った。あれから数年、今はより地球に優しい食に関することを見聞きする回数が増えてきたことを感じる。大手スーパーでも豆乳やライスミルクなどの牛乳以外の商品を取り揃えているし、オーガニック商品のコーナーが常設され、大きな店舗になると豆腐やテンペ、セイタンなどの食材も幅広く取り扱っている。街角では、新鮮な季節の産物また地産地消の促進を目標とし、定期的にオーガニック野菜の市場が開かれ、沢山の人が行き交う。
ポルトガルには、ポルトガル・ベジタリアン協会(AVP)がある。彼らがベジタリアンベースの食事を推奨する理由は、主に生態系への配慮である。しかし今、オーガニック食やヴィーガン&ベジタリアンフードは、食べることが大好きでありながら体に気を遣い始めたポルトガル人達にも、健康へのメリットという点で注目されている。AVPのウェブサイトには、200近くのレシピが並ぶ。驚くのはフランセジーニャ(Francesinha)やフェジョアーダ(Feijoada)というお肉が決め手の伝統ポルトガル料理が、見た目変わらずにアレンジされて載っていること。そしてそのバラエティに富んだレシピからも、美味しいものを食べることを何より大切にするポルトガル人の熱心さが伝わってくる。
また、VegPortugalには外国人向けに英語でも、イベント情報の他、ヴィーガン&ベジタリアンにとってどの街が住みやすいかなどの記事があり、ポルトガルの首都リスボンは、27軒の100%ヴィーガン・そして34軒のベジタリアンというレストランの数からしても、実際にヨーロッパで最もヴィーガンフレンドリーな都市のひとつでもあるそうだ。
ポルトガル・ベジタリアン協会(AVP)ベジタリアンレシピ集
VegPortugal
ポルトガルでのヴィーガン&ベジタリアン情報を集めていると、次から次へと出てきて探すのに困らない。情報は食に関するものだけではなく、宿泊施設やアパレル、栄養士やシェフの紹介、ヘア・ビューティーケアなど、非常に多岐に渡る。ラテン民族の国民性というか、普段からコミュニケーションをとても大切にする彼らは、同じコミュニティに関わる人たちとの情報共有にとても力を入れている。そしてポルトガル人は、外の世界にもとても興味のある人たちだ。外国人やその文化に対しても、興味津々。散歩している現地の見知らぬおじさんに、ポルトガル語で愛想よく挨拶しつつ、この辺で美味しくってリーズナブルなレストラン知りませんか?と聞いてみると、とっておきの情報を惜しまず教えてくれる。そんな世話焼き好きな人たちが暮らすポルトガルでは、サスティナブルな食についての情報もあちこちから集まり、どんどんアップデートされて行くだろう。リスボンから続けてレポートしていく。
クラシックな路面電車が上り下りする市内の中心地の坂道。
大航海時代の英雄の一人として発見のモニュメントの一番後ろで祈りつつひざまづいているのがザビエル。
晴天の空に映える、赤と緑のポルトガル国旗。国章は盾で、天測儀は優れた航海術を表す。
リスボン国際広場にある、ゴミやプラスチックで作られたイベリアヤマネコの巨大アート。
Text by Ryoko Imai percussionist
マルチジャンルのプロ打楽器奏者。世界的なオーケストラ・
10年間のオランダ・アムステルダムでの生活を経て、2018年よりポルトガル・リスボン在住。
www.facebook.com/ryoco.percussion